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洋装の娘からこんな質問が来るとは、まったく予想外だったのだろう。
御者はうろたえた。
「な、なんか棘とか、とがった石とか、とにかくなんかあったんだろうさ」
またぽそりと楓次の声がする。
「輓鞍をつけて馬車につながれてからも、ちゃんとおとなしくしてましたけど」
縲もまた御者に言う。
「そんな痛い物が鞍にあったなら、馬車につながれる前にでも駆け出したんじゃありません? でも実際に馬が駆け出したのは、十子さまが馬車に乗ろうとしたときだったんですよね?」
「なっなんだおまえ、おれのせいにしようってのか!?」
「誰のせいとかじゃなくて、何があったのかを正確に確かめてるだけです。それとも何か後ろめたいの?」
御者の鞭を持つ手がわずかに動いたが、縲が自分の下役でないことを忘れるほどではなかったようだ。
縲はにやりと笑った。
「だから、そうじゃないんなら調査に協力してよ。あんたがここで一番馬にくわしいんでしょ?」
「……そりゃあ、まあ……おう……」
御者の目つきには気弱の陰がちらつきはじめている。
令嬢の怪我の責任を負わされることは本当にないのか、迷っているらしい。
(自分がそういう卑怯者だからって、一緒にしないでよね)
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