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はん、と御者の目の前で鼻を鳴らしてやりたい衝動を抑えつつ、縲は質問した。
「馬が急に駆け出すって、どういうときなんです?」
「……まあ、でかい音とか急な動いたものとか、何かに驚いたときだ」
「そういうことがありました?」
「ない。それにちゃんと遮眼革もやってた」
「しゃがんかく」
なんだろうかと考えると同時に、楓次が馬具を持ってきてくれた。
さらには自分を馬に見立てて、目のそれぞれの横に黒い革板を立てる。
馬の視界を制限するもののようだ。
「そのとき、馬はどこにいたんですか?」
縲は、楓次が教えてくれた位置に行った。
さらに楓次を真似て、顔の両側に自分の手を立ててみた。
(これじゃ前しか見えないじゃない)
建物の角をぐるりと回って玄関へと続く道があるだけだ。
見晴らしもよく、急に動きそうなものもない。
(角から猫でも飛び出したとか?)
だが、驚いた馬なら、それにむかって突進するより逃げようとするのが自然な気がする。
そのままの姿勢で考えこんだ縲の目に、突然まぶしい閃光がさしこんだ。
ぴくっとして見上げると、二階の窓を開けて手をはたいた女中と目が合った。
「あ!」
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