4 うずまく疑い(2)

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 はん、と御者の目の前で鼻を鳴らしてやりたい衝動を抑えつつ、縲は質問した。 「馬が急に駆け出すって、どういうときなんです?」 「……まあ、でかい音とか急な動いたものとか、何かに驚いたときだ」 「そういうことがありました?」 「ない。それにちゃんと遮眼革(しゃがんかく)もやってた」 「しゃがんかく」  なんだろうかと考えると同時に、楓次が馬具を持ってきてくれた。  さらには自分を馬に見立てて、目のそれぞれの横に黒い革板を立てる。  馬の視界を制限するもののようだ。 「そのとき、馬はどこにいたんですか?」  縲は、楓次が教えてくれた位置に行った。  さらに楓次を真似て、顔の両側に自分の手を立ててみた。 (これじゃ前しか見えないじゃない)  建物の角をぐるりと回って玄関へと続く道があるだけだ。  見晴らしもよく、急に動きそうなものもない。 (角から猫でも飛び出したとか?)  だが、驚いた馬なら、それにむかって突進するより逃げようとするのが自然な気がする。  そのままの姿勢で考えこんだ縲の目に、突然まぶしい閃光がさしこんだ。  ぴくっとして見上げると、二階の窓を開けて手をはたいた女中と目が合った。 「あ!」
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