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「わたし、ちゃんとやりました! 今回分のお給金をください!」
田友は舌打ちをした。
「おまえには家を貸してやってるだろうが」
ずうずうしい、とその目が冷たくなじってくる。
(どっちがずうずうしいんです!)
たしかに現在は田友所有のボロ家にただで住まわせてもらっているが、それは今回の仕事に必要だからだと理解している。
なのに恩に着せてただ働きさせようとは、雇い主の風上にもおけない。
払ってもらえるまでは居座りつづける覚悟で、縲は田友をにらみ返した。
田友はもう一度舌打ちをした。
「とっておけ」
もぞもぞと袂をさぐって放り投げてきたのは、最前の五十銭銀貨ではなく二十銭銀貨だった。
縲は眉を跳ね上げた。
「手品はいいですから、さっきの五十銭!」
「要らんか、そうか」
手を伸ばした田友が本気に見えたので、縲はあわてて小ぶりな銀貨を拾いあげた。
田友は不機嫌そうにそっぽを向いた。
「もういいぞ、何かあったら連絡しろ。こっちも用があったら連絡する」
これ以上一厘ももらえる気配はなかったので、縲もあきらめて立ちあがった。
去り際ちらりとふりかえると、田友はあの盆の手紙を封筒ごと長火鉢にくべていた。
火に包まれる寸前の流麗な筆跡が、縲の視界に踊った。
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