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縲は素直にうなずいてみせ、子爵夫人に尋ねた。
「でしたら先におうかがいしておきますが、十子さまはどのようなご趣味でいらっしゃいますか? わたしがこれまで手がけた事件の、どんなものをお話いたしましょうか。仇討ちもの、旅行もの、人情もの……」
偽の手柄話に使えそうな芝居や小説を思い描きながら提案してみる。
すると、子爵夫人はどきっとしたように肩を震わせた。
「わたくしの話はだめよ! あなたは、わたくしが別のお茶会で会った探偵ということにしておくわ。だから、あの件については絶対に他言してはだめ!」
「あ、はい、それはもう、奥方さまの件は決して」
「くれぐれも気をつけなさい! そもそも十子さまは、恋などにご興味はお持ちではないのよ」
「お芝居なんかもあまり行かれないんですか?」
「そうね。というか、特にこれがお好きだというものは聞いたことが……」
子爵夫人は難しい顔で考えこんだ。
縲は別の提案をしてみた。
「たとえばお金の話題はいかがです?」
一瞬きらりとその目が光ったように思えたが、子爵夫人はすぐさま蔑みを露わにした。
「なんてさもしい! わたくしの品性まで疑われてしまうわ、冗談でもそのようなことは口にしないでちょうだい!」
「失礼いたしました。以前、さるお大尽の奥方に頼まれた事件があったものですから」
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