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縲はしれっと言って、口をつぐんだ。
さもしい金の話題を潔く切って捨てたはずの子爵夫人は少しもぞもぞしていたが、それでも前言をくつがえすことは耐えた。
「ま、まあ、たとえば舶来のものだとか珍しい文物の話だったら、十子さまもご興味をお持ちかもしれないわ。お父上の江那堂男爵は長らくあちらに行っていらっしゃるから、十子さまもあちらの物に何かとおくわしいでしょうし」
坂道を登っていた馬車が停まった。
江那堂男爵邸だった。
完全な洋館で、薄灰色の石造りの車寄せには角柱と並んで円柱も建てられ、重厚さとともに優美さも感じさせる。
(うっわ、なんてお屋敷!)
縲は圧倒された。
決して派手でも大きくもないのだが、使われている石材はまるで光を内部にはらんでいるかのようで、相当な高級品だと素人目にもわかる。
そんな邸宅内へわがもの顔で入っていく子爵夫人に、縲もぴったりついていった。
内部の柱や天井は磨き抜かれた木材で、装飾も凝っている。
種々の色を使ったステンドグラスも美しい。
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