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(召使も何人使ってるの!?)
お仕着せの洋装に白いエプロン姿の女中たちだけでも一分隊くらいいそうだが、表に出てこないその他の使用人がその数倍いてもおかしくない。
大階段がある中央ホールを抜けたところが、男爵邸の応接間だった。
すでに何人かの貴婦人が先にいて、談笑していた。
「ようこそいらっしゃいました」
そのなかからひとり、すらりと背の高い令嬢がやってきた。
まるで生まれた瞬間から着ているかのように、洋装姿がしっくりしている。
(なんてまあ美人さん!)
縲は目をみはった。
やや小柄な縲からすれば身長だけでもうらやましいが、顔立ちも人形にしたいくらい整っている。
年ごろだけは、縲と同じく二十歳すぎくらいだろう。
くっきりした両眼は、足もとの絨毯を反映して紫がかって見えるほど深い色合いをたたえていた。
「十子さま、今日はお招きありがとうございます──」
子爵夫人はさっそく、男爵令嬢の手をとらんばかりに親しげに話しはじめた。
縲はその間おとなしく待つことにした。
(……話題に注意しろ、って人にはうるさく言っといて)
先日見かけた舶来品やら知人華族の近況やら、子爵夫人は頭に浮かんだ話題を片っ端から話しているとしか思えない。
べらべらと止む気配もないおしゃべりに、十子は、ええ、とか、まあ、とか意味のない言葉だけで応えている。
子爵夫人に向けているあるかなきかの微笑も、単なる礼儀上のものでしかなさそうだ。
あくびがこみあげそうになった縲に、ふと十子の視線が向いた。
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