1 謎めいた男爵家(3)

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(っと!)  縲はあわてて会釈した。  男爵令嬢のまなざしは理知的で、意識しなくても自然と姿勢がしゃんとした。  彼女は縲から視線をはずすと、子爵夫人に言った。 「今日はお友達もつれてきてくださったそうですね」  男爵令嬢の初めての質問に、子爵令嬢はしてやったりと言いたげな顔になる。 「ええ! それが聞いてくださいまし、この方はなんと探偵なんですのよ!」 「……探偵?」 「わたくしたち婦人の頼もしい味方ですの。どんな相談事でも解決してくれるんですわ」  子爵夫人がちらと縲を見た。  機会が来た。  堂々と見えるように気をつけながら、縲は口をひらいた。 「本日はお茶会への参加をお許しいただきまして、まことにありがとうございます。はじめまして、探偵・阿古村(あこむら)縲と申します」  続いて、江戸の昔からつらなる占い師云々の偽の触れ込みを手短に説明する。  最後に十子をまっすぐ見つめて、縲は言葉を結んだ。 「もしお嬢さまのお役に立てることがございましたら、これに勝る喜びはございません」  整った顔の口もとがかすかに動いて、十子はくすっと小さく笑った。  そのくせ両眼は冷静きわまりない。  縲の言葉を過不足なく、つまりはただのおべんちゃらと見極めた様子だった。 「そう。せっかくですけれど、わたしには探偵に頼まねばならない私事なんてひとつもないの」
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