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礼儀正しさで耳にやわらかくは聞こえたものの、実態は取りつく島もない見事な拒絶だった。
しかも縲に返事をする隙も与えずに、十子はさりげなく一歩下がり、そのまま新たな客のところへと行ってしまった。
子爵夫人がその客の名を呼びながら、大げさに十子を追いかけた。
縲はぽつんと残された。
(お人形さんみたいな顔してるくせに、こりゃまた食えないお嬢さまですこと)
わずかに肩をすくめる。
美人で賢くてきっぱりしている。
縲の純粋な好みから言えば友達になりたいくらいだが、探偵と言い張って信用してもらうにはずいぶんと厄介そうな相手だ。
江那堂男爵家の謎の財産の出どころをつかむには、相当な工夫と根気が必要そうだった。
(ま、あせらずぼちぼちいきますか)
縲は目立たないように部屋の隅の席に着き、目が合った他の貴婦人に愛想よく会釈などして控えていた。
女中が銀の盆に載せた紅茶を持ってきてくれた。
「ありがとう」
気取って受け取ってはみたものの、女中のお仕着せのほうが自分の古着の洋装よりも明らかに立派で、さすがに複雑な気分になる。
まして他の貴婦人たちの装いといったら、比べるのも恥ずかしい。
気持ちを落ち着かせようと、香り高い紅茶を一口ふくんでぎょっとする。
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