5人が本棚に入れています
本棚に追加
/133ページ
(甘っ! それに牛の乳が入ってる!?)
ほうじ茶とも緑茶とも違う奇妙な味わいに、縲は一瞬吹き出しそうになった。
あわててごくんと飲み下す。
気のせいか、そばにいた数人の貴婦人たちが、ちらりとこちらを見た気がした。
彼女たちと視線を合わせずにすむよう、縲はいかにも壁の絵を鑑賞しているかのような様子を作った。
(あっちこっちも絵ばっか)
他の調度品も子爵邸よりも数段上等な品と思えたが、何よりも目立つのが壁に飾られた数々の絵画だった。
それも異国の風景や人物を描いた西洋画ばかりだ。
部屋を見据えるどっしりした暖炉の上には、地球儀とともに描かれた中年男性の肖像画があった。
縲が地球儀を見るのは女学校時代以来になる。
まだ優しい父も母もいて、いま思えばなんの苦労も心配も知らなかったころ──。
(──っと、いけないいけない)
縲はもう一度紅茶を飲んだ。
今度は落ち着いて、いかにも飲みなれているようにできた──はずだ。
(うん、慣れればおいしいじゃない)
小皿に盛られた菓子に手を出す余裕も出てくる。
(なんだろこれ、お煎餅……じゃない、甘いし。でもこれもおいしいわ。こっちはなんだろ?)
調子に乗って種々の菓子を楽しみ、紅茶のおかわりをもらっていたら、訪れるべくして訪れるものが来た。
縲はそそくさと席を立ち、女中にささやいた。
最初のコメントを投稿しよう!