1 謎めいた男爵家(3)

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(あっま)っ! それに牛の乳が入ってる!?)  ほうじ茶とも緑茶とも違う奇妙な味わいに、縲は一瞬吹き出しそうになった。  あわててごくんと飲み下す。  気のせいか、そばにいた数人の貴婦人たちが、ちらりとこちらを見た気がした。  彼女たちと視線を合わせずにすむよう、縲はいかにも壁の絵を鑑賞しているかのような様子を作った。 (あっちこっちも絵ばっか)  他の調度品も子爵邸よりも数段上等な品と思えたが、何よりも目立つのが壁に飾られた数々の絵画だった。  それも異国の風景や人物を描いた西洋画ばかりだ。  部屋を見据えるどっしりした暖炉の上には、地球儀とともに描かれた中年男性の肖像画があった。  縲が地球儀を見るのは女学校時代以来になる。  まだ優しい父も母もいて、いま思えばなんの苦労も心配も知らなかったころ──。 (──っと、いけないいけない)  縲はもう一度紅茶を飲んだ。  今度は落ち着いて、いかにも飲みなれているようにできた──はずだ。 (うん、慣れればおいしいじゃない)  小皿に盛られた菓子に手を出す余裕も出てくる。 (なんだろこれ、お煎餅(せんべい)……じゃない、甘いし。でもこれもおいしいわ。こっちはなんだろ?)  調子に乗って種々の菓子を楽しみ、紅茶のおかわりをもらっていたら、訪れるべくして訪れるものが来た。  縲はそそくさと席を立ち、女中にささやいた。
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