5人が本棚に入れています
本棚に追加
/133ページ
「あの、お手洗いは……?」
心得顔の女中は、さりげなく縲を外に連れ出してくれた。
奥まった一隅のやたらと見事な扉の奥に、これまた平民の身では入るのもはばかられる見事な個室があった。
遠くで物音がする。また誰か新たな客が到着したのだろう。
(わたしも早く戻らないと)
だが、戻った廊下には案内してくれた女中の姿はなかった。
新たな客の出迎えに行ってしまったらしい。
え、と焦ってあたりを見渡したが、誰もいない。
右を見ても左を見てもそっくりな廊下が延びていて、その先はこれまた見分けのつかない別の廊下に突き当たっている。
(やだ、どっち!?)
来るときは何より必死だったし、女中の背中を追っていただけで、周囲を見る余裕はなかった。
縲はあせった。
(お屋敷のなかをうろうろしてたら、あのお嬢さまに怪しまれるに決まってるじゃない!)
おそらくこちらだろうと見当をつけたほうへ、縲は平静を装って歩いて行った。
だが、気合と勘はでどうにかならないこともある。
応接間どころか、中央ホールすら見当たらない。
あわてて元の場所に戻ろうとしたが、それすらかなわなかった。
「迷った……」
縲は呆然と立ちすくんだ。
その直後、背後に人の足音が聞こえた。
最初のコメントを投稿しよう!