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やはり立場を偽り真の目的を隠すなどという後ろ暗いことをしていると、頭もその方向にしか働かなくなってしまうのか。
正直さなど母親の腹のなかに置いてきたような坂松田友のあくの強い風貌が自然に思い出されて、縲はぞっとした。
彼に従っていては、いずれ自分もあんな人間になってしまうかもしれない。
(うう、でもほかにろくな仕事もないし──)
その間にも、さらに足音が近づいてくる。
将来に絶望する前に、まずはこの目の前の危機的状況をなんとか切り抜けなくてはいけない。
縲はガラス戸から庭へと逃れた。
壁にぴたりと背中をつけて隠れた直後、扉が開く音がした。
縲はほっと一息ついた。
(──でも、ここからどうしよう!?)
どうやって邸内に戻ればいいのか、当然わかるわけもない。
緊張で心臓がきゅうっと締めつけられて、胸が痛くなってくる。
こめかみもずきずきと脈打っている。
浅く荒くなる息を必死に鎮めながら、縲は何かないかとあたりを見まわした。
そのとき。
芝生が美しい西洋庭園の木立の陰に、すっと人影が現れた。
「ひっ!!」
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