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見つかった。
縲の喉の奥からおもわず小さな悲鳴がこぼれる。
だが人影は騒ぐことなく、すばやく走り寄ってきた。
筒袖姿の若い園丁だった。
肩の張った痩身だが背は高いほうで、髪は毛先が立つほど短く、その下の両眼は鋭い、というより怖い。
逃げられないか、せめて言い訳できないかとあたふたする縲に、園丁はいきなり小声で言った。
「阿縲──阿古村縲か?」
それは田友が以前よこした手紙に書いてあった縲の略称だった。
縲は驚きで目を真ん丸にした。
それでもなんとか声をひそめることは忘れない。
「え、じゃあもしかしてあんたは高木速郎?」
田友が、以前は三里子爵家にもぐりこませ、今回はこの男爵家にもぐりこませているという手飼いの男だ。
「そっちは変名だ。ここには本名の柳尤雄で入ってる。──そんなことはいい、よけいなところをうろつくんじゃねえ」
尤雄の口調は鋭かったが、その眼光よりはまだやわらかく感じられる。
縲はその目に負けじとむっとにらみ返した。
「仕方ないじゃない、迷っちゃったんだから!」
ち、と尤雄は短く舌打ちをした。
不機嫌そうにじろりと縲を見下ろした目がいっそう怖い。
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