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同じく田友に使われる身で存在も聞いていたが、高木速郎もとい柳尤雄に実際に会うのはこれが初めてだ。
子爵夫人の話から、凛としながらもどこか寂しげで薄幸そうな優男をなんとなく思い描いていたのだが。
(一歩譲って、凛としてるとは言ってもいいけど)
鋭すぎる眼光のせいで他の印象はあとまわしだったものの、思い返せば容姿も身ごなしも無駄なくひきしまった感じの青年だった。
ただし、寂しげだの薄幸だの、まして女に恋をするなどというかわいげは、これまた母親の腹のなかに置いてきたとしか思えない青年でもあった。
それでも書生風の身なりをし、眼鏡をかけ、髪も長くして伏し目がちでいれば、そんなふうに見えるだろうか。
「……そうか……な?」
自分の発想に自分で納得がいかないまま、尤雄に言われたとおりに歩いた縲の前に、見覚えのあるホールが現れた。
きょろきょろしていた女中が、びっくりして縲を迎えた。
縲は、まんざら演技でもない照れ笑いを浮かべた。
「ごめんなさい、お手洗いの帰りにちょっと迷ってしまって」
女中はあわてて、先ほど急にお客さまが到着なさってだのなんだのと言い訳を始めた。
縲はねぎらうようにうなずいた。
「恥ずかしいから、この件はお嬢さまには内緒にしてくださいな」
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