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同じ平民同士なんだし、という空気を強く出しつつ、縲はさりげなく訊いてみた。
「お嬢さま、厳しい方なんですか?」
「いいえ、滅多に怒るような方じゃありません。お手当も十分以上にいただいてますし……ただ、なんと申しますか、賢い方でいらっしゃいますから見逃さないと申しますか……」
たしかにあの男爵令嬢と相対していると、心のなかまで見透かされそうな気になってくる。
自分の不手際を心配する女中をなだめ、縲は応接間に戻った。
談笑する輪のなかにいた十子が、ちらと視線をよこした。
縲は恥ずかしそうに会釈し、前にいた席に戻った。
皿にはまだたっぷりと菓子類が残っていた。
だが調子に乗ってこれを食べると喉が渇き、紅茶のおかわりが進んで、また思わぬ窮地に立たされるかもしれない。
(帰ったら残り物でお茶漬けにでもしよ……)
旺盛な自分の食欲をなだめつつ、縲はさも興味があるかのような顔で壁の絵画を眺めていた。
すると三里子爵夫人がやってきた。
「お縲、あなたひとりで帰れるわよね?」
「は!?」
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