1 謎めいた男爵家(4)

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 同じ平民同士なんだし、という空気を強く出しつつ、縲はさりげなく訊いてみた。 「お嬢さま、厳しい方なんですか?」 「いいえ、滅多に怒るような方じゃありません。お手当も十分以上にいただいてますし……ただ、なんと申しますか、賢い方でいらっしゃいますから見逃さないと申しますか……」  たしかにあの男爵令嬢と相対していると、心のなかまで見透かされそうな気になってくる。  自分の不手際を心配する女中をなだめ、縲は応接間に戻った。  談笑する輪のなかにいた十子(とおこ)が、ちらと視線をよこした。  縲は恥ずかしそうに会釈し、前にいた席に戻った。  皿にはまだたっぷりと菓子類が残っていた。  だが調子に乗ってこれを食べると喉が渇き、紅茶のおかわりが進んで、また思わぬ窮地に立たされるかもしれない。   (帰ったら残り物でお茶漬けにでもしよ……)  旺盛な自分の食欲をなだめつつ、縲はさも興味があるかのような顔で壁の絵画を眺めていた。  すると三里子爵夫人がやってきた。 「お縲、あなたひとりで帰れるわよね?」 「は!?」
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