1 謎めいた男爵家(1)

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 縲は一瞬、素の視線で子爵夫人を眺めた。  年齢は三十歳前後といったところか。  この子爵家は華族としては裕福なほうではないというが、平民の縲の目からすれば十分すぎるほどだ。  金と同等以上に暇もあるから、こうして書生の行方不明にも大騒ぎできるのだろう。 (まあ、それでわたしの出番が回ってくるんですけどね)  そんな内心はおくびにも出さず、縲は子爵夫人をなだめにかかる。 「ご安心ください、高木速郎は見つけました」  子爵夫人が勢いよく体を起こした。  縲を見る目は爛々(らんらん)として、華族らしい上品さなどふっとんでいる。 「じゃあどこにいるの!? いますぐ速郎をここにつれてきて!」 「その前に、奥方さま。なぜ高木速郎がこちらを出奔(しゅっぽん)したのか、お心当たりはございますか?」  子爵夫人ははっとして視線をそらせた。  頬にうっすらと赤みがさす。  そんな子爵夫人を冷静に眺めていた縲は、合切袋(がっさいぶくろ)から一通の封書を取り出した。
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