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縲は一瞬、素の視線で子爵夫人を眺めた。
年齢は三十歳前後といったところか。
この子爵家は華族としては裕福なほうではないというが、平民の縲の目からすれば十分すぎるほどだ。
金と同等以上に暇もあるから、こうして書生の行方不明にも大騒ぎできるのだろう。
(まあ、それでわたしの出番が回ってくるんですけどね)
そんな内心はおくびにも出さず、縲は子爵夫人をなだめにかかる。
「ご安心ください、高木速郎は見つけました」
子爵夫人が勢いよく体を起こした。
縲を見る目は爛々として、華族らしい上品さなどふっとんでいる。
「じゃあどこにいるの!? いますぐ速郎をここにつれてきて!」
「その前に、奥方さま。なぜ高木速郎がこちらを出奔したのか、お心当たりはございますか?」
子爵夫人ははっとして視線をそらせた。
頬にうっすらと赤みがさす。
そんな子爵夫人を冷静に眺めていた縲は、合切袋から一通の封書を取り出した。
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