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十子がたいして興味を示さなかったことで、探偵など役立たずと見なしたのだろう。
使用人ごときに先に帰っていいと声をかけた自分はなんと寛大なのか、と言わんばかりの満足げな顔で、子爵夫人は立ち去ろうとした。
が、そこで足を止めた。
「──あら、十子さま」
動転のあまり立ちあがることも忘れていた縲は、近づいてきた十子の姿にあわてて立ちあがった。
十子が言った。
「ぶしつけですけれど聞こえてしまいました。お困りでしたら、うちの馬車で送らせましょう。あなたも今日はお客さまですから」
「はい!?」
「どうぞ遠慮しないで。こちらへ」
十子が早くも歩き出したので、縲はついていくしかなかった。
ホールを抜け、玄関へ行った十子は、そこで横手に顔を向けた。
「宮芝」
ひと言呼ばわると、ブーツを履いた御者が上着の胸もとを止めながらやってきた。
茶色い髪を後ろで束ねていたが、たいして長くもないので子犬のしっぽのようにひょこひょこ揺れている。
ただでさえ童顔なのに、縲にまで愛想よくふりまいた微笑がさらに拍車をかけていた。
「はいはいお待たせしました、いかがしました?」
「こちらの阿古村さまをご自宅まで送ってさしあげて」
「かしこまりました」
十子がちらと縲を見た。
「ではごきげんよう」
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