1 謎めいた男爵家(4)

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 おだやかに敗北を受け入れていた縲の心臓が、その言葉でぎゅっと縮みあがった。 「庭っ!?」  まさかこの御者に見られていたのだろうか。  縲はまばたきも忘れて御者を見た。  童顔の御者は相変わらず微笑んでいる。   「違います? ほら、靴に芝がついてますよ」  縲はあせりながら自分の靴先を見た。  たしかに短い芝が張りついていた。 (どうしようどうしようなんて答えよう!?)  あせるばかりでなんの考えも浮かんでこない。  縲はそろそろと顔をあげた。  御者はきょとんとした顔で頭に手をやった。 「あれ、勘違いでした? じゃあここに来る前に別のどこかでついたんですかねえ。失礼しました」  その後は特に何事もなく、御者はちゃんと縲を家まで送ってくれた。  愛想笑いを顔に貼りつけて礼を言って馬車を見送り、やっと自分の家に戻った瞬間、縲はくたくたとへたりこんだ。  ため息とともに声が漏れた。 「……歩いて帰ればよかった……」
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