2 心配な計画(1)

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2 心配な計画(1)

 昼下がり、江那堂(えなどう)男爵邸に静かなひとときが訪れる。  十子(とおこ)もひとり居室で本をひらいていた。  開けはなした窓からは秋のにおいを忍ばせたそよ風が入り、その髪をかすかに揺らす。  小鳥のさえずり以外聞こえない、おだやかな時間だった。 「十子お嬢さま、本日の分にございます」  そこに、女中頭のクメが盆に山ほどの配達物を載せて持って入ってきた。  十子はうなずき、本を置いて机に着いた。  洋行中の父・蘭攝(らんせつ)に代わっての責務だ。  父宛ての手紙を分け、家政上のものは片付けていく。 「十子お嬢さま、そちらは納品の件でございましょう。すでに先方にきつく言いつけておきましたので、何もせずともよろしゅうございます」  クメが口をはさんでくる。  亡母の嫁入り時に一緒にやってきた女中だった彼女は、男爵家の内情をよく知っている。 「そう、ありがとう」  十子は逆らわずに礼を言い、出入りの店からの言い訳の手紙を置いて次の手紙を開けた。  クメがまた言った。 「そちらは婦人慈善会の寄付金でございますね。今回は五円ほどにいたしましょう」 「ではそのようにして」  どうせしみったれた吝嗇家(りんしょくか)と陰口をたたかれるだろうが、もっと払えば払ったで偉そうな金満家(きんまんか)と言われるだけのことだ。  十子としてはどうでもいい。  次の手紙を開けるかどうかといったところで、またクメが口をはさんでくる。 「その件につきましては──」
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