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やがて十子はすべての手紙を開け、それらの用件に関するクメの意見を聞き終えた。
あとは自分宛ての私信だけだ。
封を切りながら声をかける。
「ありがとう。今日はこれですんだようだわ、下がっていいわよ」
だがクメは訳知り顔の微笑を作っただけで、出ていこうとはしなかった。
「……十子お嬢さま、そのうちの三里子爵夫人からのお手紙につきましては、少々お耳に入れたいことがございます」
十子は無言で銀製のペーパーナイフを走らせ、手紙に目を通した。
「一昨日のお礼と、来月のご自宅でのお茶会のお誘いだけれど」
「そのお茶会にご招待されるはずの方についてでございます。なんでも子爵夫人には甥御さまがいらっしゃいまして、その方が今月末に留学を終えて帰国されるとか。たぶんその方もお茶会に呼ばれておりましょう」
「くわしいのね」
十子の声にこもった冷ややかな皮肉には気づかなかったようで、クメの肉の薄い顔に得意げな色が浮かんだ。
「ええ、それはもう。わたくしは十子お嬢さまのためでしたら、どのようなこともおろそかにはいたしません。なにしろ亡き奥方さまから──」
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