2 心配な計画(1)

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 亡母に頼まれて十子の行く末を案じている、という決まり文句がまた始まった。  十子はおだやかに、しかし心は完全に無のまま、クメの話を聞き流した。  さりげなく他の手紙を眺める。  三里子爵夫人だけではない。他の貴婦人からも何通か来ているが、中身はほとんど同じだ。  茶会や催しへの誘い、そして遠回しな見合い話。  どの文面からも江那堂家が持つ財産への欲求がむっと押し寄せて、むせそうになる。  銀行からの投資話のほうが、最初から目的をはっきりさせているだけすがすがしい。 「──三里子爵夫人の甥御さまも結構ですが、紅崎(べにざき)男爵家のご次男さまや海村(うみむら)子爵家のご長男さま、それに磐地川(いわちがわ)侯爵家にも独身の御子息さまがいらっしゃるとか──十子お嬢さまもよき方にめぐりあわれて──」  縁談に意見してくるクメも、求めるものは微妙に違うとはいえ、十子に欲求を押しつけてくるという点でよく似ている。  自分の忠義と見識を認めてほしい、感謝して報いてほしい、というその言外の声に、かえって気持ちが遠ざかる。 「そうしたお話はお父さまとして。お父さまご不在で縁談を進めることなどできないわ」
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