2 心配な計画(1)

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 クメはいらっと顔をしかめた。 「まあ! ですが十子お嬢さま、旦那さまはあのような──その、いまだお忙しくていらっしゃいますし、お帰りを待っていたらいつになるかわかりません。わたくしは亡き奥方さまにかわって」  自分が監督する男爵家の令嬢が行き遅れるなど、彼女の自負心が許さないのだろう。  なおもまくしたてようとするクメの言葉を、十子はさえぎった。 「お父さまご不在で縁談を進めることはしません。ご招待もお断りするわ」  まだ反論しようとした女中頭を正面から見据える。 「下がりなさい」    相手が自分の欲求を押しつけてくるのなら、十子も押しつけるだけだ。  ありがたいことに、十子ももはや子供ではなかった。  意見がぶつかったとき、年齢を理由にあきらめさせられずにすむだけの権利はすでに得た。 「……ほかに何か御用がございましたら、仰せつけくださいませ」  クメはしぶしぶ引き下がった。  やっとまたひとりになれた。十子は細い眉をひそめて息をついた。  そのとき、かすかに秋風の匂いが変わった。  窓の外を見ると、ひと筋の細い煙がゆらゆらと空へのぼっていた。 「──そうだわ」
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