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ひとりごとをこぼし、十子は階下へ降りた。
庭へは応接間から出たほうが早い。
暖炉の上の肖像画へちらりと目を向け、庭へ出た十子は、掃き集めた落葉を燃やしていた若い園丁の背中に声をかけた。
「ちょっといいかしら?」
ふりかえった園丁は十子を認めて目礼し、向き直った。
柳尤雄という数か月前に通いで入ったこの園丁を、十子はなんとなく気に入っている。
不愛想で無口だが働き者で、雇い主に対し媚びもしなければ恐れてもいない、一種超然としたところがある。
だからひと月前、長屋が建て替えになるのでと彼が一時住込みを願い出てきたときも、すぐに許可した。
「これも燃やしてしまって」
十子は自分宛の手紙の束を差し出した。
背が高いくせに伏し目にしていた尤雄が、一瞬だけ十子の顔を見た。
手紙を渡して去ってしまえばいいのだが、彼相手に、十子は珍しく自分から無駄話をしたくなった。
「いいのよ。くだらない手紙ばかりで、手もとに残しておきたくないの。燃やしてしまったほうがすっきりするわ」
尤雄は軽く頭を下げて手紙を受け取ると、手際よく火にくべた。
煙が少し太くなる。
ぱちぱちと焚火がはぜる小さな音も耳に心地よい。
取り戻したおだやかな時間をしばらく楽しんでから、十子は微笑んで尤雄に目をやった。
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