2 心配な計画(1)

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 尤雄はやはり何も言わなかった。  少しばかり不安になって、そしてそんな自分が情けなくて、十子は応接間の窓を見やったまま苦笑した。 「──でも、あなたはそうは思わないのでしょうね」  そのとき、遠くから明るい大声があがった。 「あ、いた、尤雄くん! おーい!!」  不愛想な園丁への親しげな呼びかけに、十子は驚いてふりむいた。  第二御者と馬丁を兼ねる宮芝(みやしば)楓次(ふうじ)だった。  楓次は十子を見ると目を丸くし、それからぺこりと頭を下げた。後ろでくくった髪が遅れて揺れた。 「これは失礼しました。尤雄くんしか見てなくてですね」  無邪気な笑顔とともに、受け取りようによっては失礼なことを平気で言う。  雇って半年足らずだが、もう何年も江那堂家にいるかのような──それどころか実家のような──遠慮のなさだ。 「いい酒を出す蕎麦(そば)屋を見つけましたんで、ひとつ尤雄くんに(おご)ってもらおうかと気が急きまして」 「……お給料は十分にあげていると思ったけれど」 「ええ、いただいてますよ、ありがとうございます。でもですね、世のなかいろいろ入用でして。その点尤雄くんは堅造(かたぞう)──あ、いえ、おれなんかとは人間が違って高潔で、無駄遊びなんて一切しない立派な青年ですから。その煙管(きせる)も、煙草を吸うためじゃないんですよ」
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