2 心配な計画(2)

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 地理学者の肖像画を思い出しながら、縲は尋ねた。 「それなら盗んだ犯人まで捕まえないと、お嬢さんの気が済まなくないですか?」 「ばかが、当たり前だ。犯人まで捕まえろ」 「え──でもだって犯人って」 「もちろん尤雄よ。しばらく牢に入れば済む」  まるでちょっと湯治(とうじ)にでも行くような田友の言い草に、縲は仰天した。  たしかに彼のあの目つきの鋭さは犯罪者として申し分ないが、だからといってこれは── (違うでしょ!)  世のなかは白か黒かではなく、限りなくどちらかに近い灰色しかないことは、縲も身に染みてわかっている。  それでも、できることなら白寄りの灰色でいたい。  頼れる親もなく財産もなく、何もない身だからこそ、心根まで落ちぶれたくはない。  自分の目的のために他人を犯罪者にするなど、もってのほかだ。  縲はすっくと立ちあがった。 「やめ! やめやめやめ! こんなさもしい悪だくみに協力できるもんか!」  だが田友は鼻で笑っただけだった。 「威勢がいいな。まあおまえがいやだって言うんなら、ほかをあたるだけだ。使える奴はいくらでもいるんでな」 「そうしてよ、この狸の親玉が! わたしは真っ平ごめん!」  田友は煙管を吸い、旨そうに煙を吐き出した。  これもどうせ上等の煙草なのだろうが、縲からしたら臭いだけだ。 「このあと尤雄と打ち合わせなきゃならん。二、三日やるから、よくよく頭を冷やして考えろ」  いー、と顔をゆがめて、縲は田友宅を飛び出した。
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