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何ごとかを隠したいときは、口数を多くするより何も言わないほうがいい。
裏門の門番に会釈して、尤雄は町へと出た。
秋の早い日暮れに急かされるように、家なり盛り場なり仕事なり、行き先を持つ人びとが道を急いでいた。
どこで撒くか──そう考える尤雄の耳に、明るい声が飛びこんだ。
「興味ないってことはないと思うんですよね。だって彼女、尤雄くんと同じですから」
一瞬自分の気配が変わらなかったか、尤雄は自問した。
まさか、縲と自分が共謀だと察しているのだろうか。
顔に出さないよういつも以上に意識しながら、横目に楓次を見やる。
「何がだよ?」
自分が人に強面な印象を与えることは知っている。
だが、楓次はまったく気にしていなかった。
「尤雄くんも、彼女に会うといいですよ」
かまをかけているのか、単純にそう思っているだけなのか。
楓次の人懐こい笑顔からは何も読み取れない。
だとしたら、反応しないほうがいい。
改めて撒く機会を探そうとしたその矢先、楓次が言った。
「あ、蕎麦屋発見! じゃあ尤雄くん、また」
楓次はさっさと道端の蕎麦屋の屋台へと走っていった。
気勢をそがれて、尤雄はその背を見送った。
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