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放っておいたら、子爵夫人の芝居っ気たっぷりの述懐は延々と続きそうだった。
訪れた一瞬の隙に、縲はすばやく声をかけた。
「奥方さま、ですからどうか、高木速郎はこのまま見送ってはいただけませんか? 彼は、こちらでの美しい記憶を胸にこれからを生きていくと申しておりました。その気持ちを奥方さまに知っておいていただけることこそ、かの者の幸せかと」
子爵夫人はぐっと涙をこらえ、うなずいた。
「……そうね。ご苦労だったわ、お縲。もう下がっていいわよ」
寛大な女主人よろしく答えた子爵夫人は、縲などいないかのように窓の外に視線を移して、ほうっとため息をついた。
またしても使用人扱いされて、縲の眉が跳ねあがる。
(用済みはさっさと帰れと!? これだから華族は!)
そんないらだちをまたしてもなんとか押さえつけ、縲はどうにか申し訳なさそうな顔を作った。
「……あの、奥方さま、この一件を解決できましたら、なにがしかいただけるというお話でしたが……」
一方子爵夫人は、隠す様子もなくいらいらと眉をひそめた。
ちらりと横目に見てくる目つきも、あからさまに縲を邪魔者扱いしている。
「ああ、その話。準備はしてあるわよ、受け取ってお帰りなさい」
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