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「……けっ」
舌打ちまじりにつぶやいて、尤雄は再び歩き出した。
回り道をし、背後にも注意して、用心深く向かった先は田友の家だ。
底冷えする板の間に正座でしばらく待つと、田友が来た。
座るのがいやなのだろう、田友は着物の袖のなかで腕組みをしてしゃがみこんだ。
「例の物だがな、裏の坂上の稲荷に隠しておけ。そのあとは両国あたりの盛り場にひそんでいろ」
声をひそめての指示に、尤雄は淡々と答えた。
「はい」
江那堂男爵家から肖像画を盗み、犯人として捕まって監獄へ行くことが、尤雄に課せられた仕事だった。
園丁としてもぐりこんだときから、おおむねこうなることは承知の上だ。
「出てきたあとはちゃんと見てやる。心配するな」
田友はしらじらしく、尤雄の肩に親しげに手を置いてきた。
尤雄は先ほどとまったく同じように答えた。
「はい」
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