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2 心配な計画(3)
採用本決定までは顔を出すなと言われたので、縲はこれまで行ったことはない。
それでも場所は調べてある。
ガス灯をともした商店がずらりと並ぶ表通りから、路地に入った一角。
そこに田友の鳴東新聞社はある。
開けはなされた一階の編集室はガス灯に照らされ、夕暮れなのに人の出入りが多い。
しかも誰もがもれなく急いで殺気立っていて、うっかり声などかけようものなら怒鳴られそうだ。
だが、ここで気おくれしては来た意味がない。
「あの!」
縲は思い切って声をかけた。
「新聞ください!」
返事はなかった。
社員はペンを手に、もしくは耳にかけ、無数の紙片と大声が行きかっている。
仕切りになっている細長い台には乱雑に今朝の新聞紙が重なって、さらにその上に本やら文房具やらごちゃごちゃと雑多な物が載っていた。
「もらってきますよ!」
この時間なら、すでに古紙回収に出すしかない売れ残りだ。
それでもただでもらうのは気が引ける。
一厘銅貨と迷って半銭銅貨を置き、束から新聞紙一部を引っこ抜こうとする。
その途端に奥から怒鳴られた。
「おい! 配達夫希望はそっちの申込帳だ!」
びくっとなった手がすべり、雑貨の山が崩れ落ちた。
怒鳴り声の主が不機嫌そうにうなった。
「違います、新聞をもらったんです、お代はそこに置きましたから!」
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