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落ちた物を急いで戻し、縲は新聞紙をつかんでそそくさと表通りへと出た。
誰も追ってきていないことを確認してから、ガス灯に近づいて新聞をひらく。
鳴東新聞には真摯な記事が並んでいた。
時事にからめた舌鋒鋭い政策批判に、官憲や富裕層の横暴への非難、民間慈善事業への寄付呼びかけなど、社主の人となりからはちょっと想像がつかない紙面だった。
(意外……)
驚きながらめくっていくと、何かがはらりと足もとに落ちた。
鳴東新聞社付けで、田友個人宛ての葉書だった。
先ほど雑貨を戻したとき、新聞紙にまぎれてしまっていたらしい。
「あ」
宛名書きの筆跡に見おぼえがある。
こんなにものびやかで流麗な筆跡は忘れようがない。
田友宅で見た、長火鉢の火にくべられてしまった手紙だ。
縲はあわてて葉書をひっくりかえした。
『いいかげんによしておけ』
警告だろうか。
全面を使っての仮名書きで、署名はない。
(何これ)
ガス灯にもっと近づいて葉書をくわしく見ようとしたとき、店内から声がかかった。
「いらっしゃいませ、何をさしあげましょう」
「あっいえ! あのその」
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