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縲はとっさに、尤雄に饅頭を押しつけた。
楽しみにしていた饅頭だが、まずは目の前の尤雄だ。
縲を元気づけてくれたときほどではないにしても、これで彼も少しは元気を出してまっとうに生きる勇気が湧いてくるかもしれない。
「まだちょっとはあったかいから! 冷めないうちに、ほら」
「は?」
「いいから早く食べてってば! 上等の酒蒸し饅頭だから!」
尤雄が小さく息をついた。
彼の手のうちで包み紙ががさりと鳴った。
(ああ、今日の夕飯──)
ほんのり温かかった饅頭から、かなり薄れはしたがいい匂いがただよってくる。
ごくり、と縲は生唾を飲みこんだ。
無意識に帯を押さえて、腹の虫をなだめる。
「ほら」
突然、目の前に包み紙に入ったままの半欠けの饅頭が突き出された。
ふんふん、とおもわず匂いでも確かめてしまってから、縲はまばたいた。
「へ?」
「もとはおまえが食べる気だったんだろ? 相伴ならする」
「あ、うん……」
縲は半欠けの饅頭を受け取った。
饅頭は思ったより温かかった。
ぱくりと口にする。
「……美味しっ……」
自然に声が出て、目が細くなる。
ふんわりした口当たりのあと、やさしい甘味とほのかな温かさがじんと全身に染みわたっていく。
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