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「……うまいな」
あとから食べた尤雄もぽつりとつぶやいた。
縲は力強くうなずいた。
「でしょ? ほら、だから元気出して、あんな狸親父なんか蹴飛ばしちゃえばいいのよ」
「それとこれとは話が別だ。だがたしかに、おまえはやめとけ。あいつとつるんでもろくなことにならねえ」
「わかってるじゃない! だったらあんただって」
「寝覚めが悪いって言っただろ」
縲の言葉を遮ると、尤雄は不意に別の話題を口にした。
「家は? 近いのか?」
「え、ここから十丁くらいだけど」
尤雄はさらに言った。
「送ってやる。どっちだ」
「別にいいわよ、ひとりで帰れるし」
縲はなかば反射で断った。
すぐそこというわけではないが遠いというほどでもなし、そもそもこんな扱われ方には慣れていない。
「どっちだ。早くしろ」
だが不機嫌そうに急かされて、縲はむっとしながらも歩き出した。
それならばと道すがら、田友のとのつきあいをやめるよう説得できないかと話しかけてみたが、尤雄はまったくの無反応だった。
(この石頭!)
しまいには縲もふくれて黙りこんだ。
星明かりにふたりの足音だけが響く、奇妙な道中だった。
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