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子爵夫人はもう窓の外にしか興味はなく、物思いにふけっては目もとをハンカチでぬぐっている。
その気取った態度にさらにいっそう腹が立つものの、ここで喧嘩をしてはすべてが台無しだ。
縲はおとなしく引き下がることにした。
それでも最後、言うべきことは忘れない。
「奥方さまのお悩みを解決できてようございました。ほかにも悩めるご婦人がおりましたら、なんなりとご相談くださいますようお伝えくださいませ」
子爵夫人はなげやりに手をひらつかせた。
縲は頭を下げ、部屋を出た。
ふん、と鼻を鳴らしかけたところで、不意に横から声をかけられる。
「こちらは謝礼にございます」
着物姿の初老の女中が、無表情に小さな包みを差し出してくる。
縲はあわてて愛想笑いを作り直した。
「あっ、はいっ、ありがとうございます」
うやうやしく謝礼を受け取って、子爵邸の門の外へと出て、角を曲がる。
もうここなら見ている者もいないことを確かめて、縲は合切袋に入れた謝礼の包みをのぞいた。
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