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§ § §
この時期は掃いても掃いても落ち葉がたまる。
江那堂男爵邸の庭で掃き集めた落ち葉に火がついたことを確認して、尤雄は立ちあがった。
ちらと応接間に目をやる。
と、そこの大きなガラス戸がちょうど開いて十子が出てきた。
「これも燃やしてしまって」
また差し出された何通かの手紙を尤雄は受け取り、火にくべた。
男爵令嬢みずからいちいち庭に持ってこなくてもとは思うが、居室の暖炉に火が入るまではこれが楽なのだろう。
「あなた、いまこちらを──応接間を見ていたの?」
十子が訊いてきた。
気づかなかったが、すでにそのとき彼女は応接間にいたらしい。
見られたのはまずかったか、と尤雄は無表情な顔の下で自問した。
しかし自分が応接間の絵画に興味があると彼女に思われることは、今後の仕事への布石としては悪くないかもしれないと思い返す。
「絵があるとうかがいましたので」
「ああ、絵……絵に、興味があるのかしら?」
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