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クメはそれから執事の欠点をこれでもかと並べたてた。
彼の手抜き仕事、傲慢な性格、髪を伸ばした気取りっぷり、常に人を見下ろそうとする癖……しまいには「薄い眉は薄情の人相」だの「口が小さくて信用ならない」だの、容貌まであげつらいはじめる。
十子はわずかに眉をひそめ、女中頭の止まらない悪口に無理やり割って入った。
「駒藤が悪事をはたらいているという証拠はあるのかしら?」
告発への当然の疑問として訊いたのだが、クメは傷ついたように十子を見た。
だがすぐに、さらなる勢いでまくしたててきた。
「そんなもの、顔と普段の態度を見ればわかります! それにあの男は、十子さまより前に新聞を読んでいるんでございますよ。わたくしもあれには特に目を光らせておりますから、見つけ次第きつく注意しているというのに改めもせず……とんでもない無礼者にございます!」
配達された新聞はインクがまだ新しく、紙面がこすれていることもあれば、手を汚すこともある。
あるじに渡す前にそれらを確認するのは執事の仕事なのだが、もはやクメには彼の横暴を示すものとしか思えなくなっているようだった。
執事もなかなか居着かない江那堂男爵家において、駒藤はかなり長く続いているほうだ。
しかしいつの間にか、最古参の女中頭との仲はこじれにこじれてしまっていたらしい。
十子はなんとかクメをなだめようとした。
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