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「駒藤は丙子銀行頭取からの紹介よ。確実な証拠もないのに、そんなことを言うものではないわ」
「頭取がなんです、そんな証拠など待っていたら遅うございます! 旦那さまがいらっしゃらないいま、あの男は増長するばかりです! わたくしは十子お嬢さまに何かあってはと心配で」
クメは、この場で駒藤を馘にしないかぎり納得できないと言わんばかりの怒り顔だ。
十子は心の底からうんざりした。
クメは自分への賛同を求めるばかりで、そこには理も義も入る余地はない。
せめていま口にできる最大の同意の言葉を探す。
「ではわたしからも気をつけておくわ。あなたも何か証拠があったのなら知らせてちょうだい」
するとクメははっと目を見ひらいた。
その顔にゆっくりと微笑が広がっていく。
「──かしこまりました。たしかに化けの皮を剥いでやればよい話でございますものね」
不穏な微笑だった。
十子はおもわず立ちあがった。
だが呼び止めるより早く、クメはさっさと出ていってしまった。
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