2 心配な計画(4)

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       § § §  鼠が天井裏に逃げこんで、猫も負けじと駆けあがったらしい。  どどどどど、と激しい追いかけっこの振動とともに天井板が揺れ、埃が落ちてくる。 「やめなさあああい!!」  うつぶせにぐったり寝そべっていた(るい)は、たまらず起きあがって叫んだ。  その瞬間、がたっと天井板の一部がはずれて猫の足が見え、すぐに引っこんだ。  どどどどど……と追いかけっこが遠ざかっていく。 「まったくもう、修繕賃なんてないんだからね!」  今日一日、家と仕事を求めて歩きまわったあとだが、なかなかうまく行っていない。  灯り代ももったいないくらいだ。  縲は踏み台を持ってきて、なかば手探り状態で祈りながら天井板を戻した。  なんとかはまってくれてほっとする。 (あー、早くしなきゃ)  ここは田友(でんゆう)の持ち家だ。いつまでもいられない。  縲はため息とともに踏み台を降りた。  気持ち同様に薄暗い視界の隅、文机に置いたままの葉書がふと白く輝いて見えた。  縲は葉書を取りあげ、しげしげと眺めた。 (……どういう人が送ってきたんだろう?)  田友宛に、『いいかげんによしておけ』の文面。  新聞社などをやっていると、こうした警告状も珍しくないのかもしれない。 (そうでなくたってあんな狸親父だし。どこで恨みを買っていたっておかしかないわ)  一方で、この送り主ののびやかな筆さばきと少し他人事のような言い回しには、どこか余裕が感じられる。  恨みや怒りというよりは、呆れ果てているというか見下げているというか、どこか田友を軽んじている雰囲気すらある。  もっともひとつ確実なのは、この葉書の送り主は田友の行動をよろしくないものと考えているということだ。
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