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(やっぱりろくな人間じゃないわ。あんなのとはさっさと縁を切らなきゃ)
そのとき、脳内に声がよみがえる。
──おまえはやめとけ。あいつとつるんでもろくなことにならねえ。
縲よりも田友とのつきあいが長くて深そうな尤雄もそう言っていた。
ならばやはり、田友とは縁を切るという判断は間違っていないのだろう。
だが。
(……じゃああんたはどうするのよ)
縲はむっと顔をしかめた。
田友に犯罪者にさせられて監獄に送られるというのに、尤雄は黙って従う気でいる。
これが人に逆らう気概もない男なら、勝手にめそめそしてくださいと忘れるところだが、尤雄という人間はどう見てもそうではなさそうだから引っかかる。
それこそ彼の言い分ではないが、どうにも寝覚めが悪い。
(ああああもう!)
といって、金もなく、宿ももうすぐなくなる身で何ができるというのか。
警察に駆けこんだところで、相手にしてもらえるとは思わない。
万が一なんらかの罪になるとしても、その場合は尤雄も田友の一味と見なされて罰を受けるのではないだろうか。
彼のために縲ができることは何もない。
無人の部屋のなか、縲はひとり鋭く自分を叱咤する声をあげた。
「──やめ! まずは仕事、それから家!」
がたっ、といきなり戸が開いた。
縲の悲鳴と闖入者の声とが重なった。
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