2 心配な計画(4)

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「わ、すみませんお取込み中のところ──ってあれ、誰もいないんですか?」  どきっと飛び出しそうになった心臓を押さえて縲がふりむくと、愛想のいい笑顔があった。  江那堂男爵家の御者、宮芝(みやしば)楓次(ふうじ)だった。  にこにこと頭を下げてくる。遅れてぴょこりと、くくった短い髪が揺れる。 「やあ、来客中でないのならよかった。あ、でも、このあと何かご予定があるとか? いまのはその話の練習だったとか?」  からかっているのか本気で尋ねているのか、まるでわからない。  ともかく奇声を聞きつけられたことには違いなく、縲の頬にさあっと血がのぼった。 「なっなななんでもありません! それより急になんですかいったい!」  茶会のあとに送ってもらったので、彼がこの家を知っていることはわかる。  しかし訪ねてくる用事などないはずだ。  まさか疑惑をさらに深められたのかとか、それよりもっと悪い何かが起きたのかとか、悪い想像ばかりがふくらんでいく。  さっさとはっきりしてほしいのに、楓次はいたくのんびりしている。 「縲さんは、着物姿もちゃきちゃきっとしていていいですねえ。あ、もちろんこの前の洋装もお似合いですけど」 (そんな話をしに来たわけないでしょ!)  縲はおもいきり疑り深い目で楓次を見た。  どうやら彼は、すぐに帰る気はないらしい。 「……お茶はないですけど、井戸水でも?」 「ああ、せっかくのお誘いすみませんが、一服している時間がなくてですね。すぐに来てもらっていいですか?」 「え?」  楓次は姿勢を正した。  体に急に芯が入ったようにぴしりとし、表情も改まる。 「先刻、江那堂家で事件がありました。警察沙汰にする前に、探偵阿古村(あこむら)縲さまに解決していただきたく」  縲の目が丸くなった。
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