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(……やっぱり)
謝礼金は五十銭銀貨一枚。
日雇い仕事の二日分といったところだ。
子爵夫人は書生について思い入れたっぷりに語ることはできても、捜索費用はあまりかけたくなかったらしい。
「ま、いいんですけどね」
縲は小さくつぶやくと、包みと並んで合切袋に入っている封書を見て苦笑する。
もともと縲が持っていた封書は二通。それぞれに小さな目印をつけて、区別がつくようにしてあった。
子爵夫人に渡した書生の手紙は、子爵夫人への許されない恋心をつづったもの。
そして渡さなかったこちらの手紙は、博打で借金をこしらえて夜逃げする非礼を詫びたもの。
どちらを渡すかはその場での判断だったが、どうやら間違わずにすんだ。
縲はふりかえった。
「どうぞ阿古村縲をごひいきに、奥方さま」
そうするのだと伝え聞いた西洋流の礼儀で、縲は軽く膝をかがめて礼をした。
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