1 謎めいた男爵家(1)

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(……やっぱり)  謝礼金は五十銭銀貨一枚。  日雇い仕事の二日分といったところだ。  子爵夫人は書生について思い入れたっぷりに語ることはできても、捜索費用はあまりかけたくなかったらしい。 「ま、いいんですけどね」  縲は小さくつぶやくと、包みと並んで合切袋に入っている封書を見て苦笑する。  もともと縲が持っていた封書は二通。それぞれに小さな目印をつけて、区別がつくようにしてあった。  子爵夫人に渡した書生の手紙は、子爵夫人への許されない恋心をつづったもの。  そして渡さなかったこちらの手紙は、博打で借金をこしらえて夜逃げする非礼を詫びたもの。  どちらを渡すかはその場での判断だったが、どうやら間違わずにすんだ。  縲はふりかえった。 「どうぞ阿古村縲をごひいきに、奥方さま」  そうするのだと伝え聞いた西洋流の礼儀で、縲は軽く膝をかがめて礼をした。
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