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「わが家が楽園のような場所だったとは言わないわ。けれども、こうした放火みたいな乱暴だけはなかったの。使用人のあいだにここまでこじれた問題があるなら、主人としての義務を果たして解決しなくては」
「……はい?」
縲はぱちくりとまばたいた。
尤雄が放火するとは聞いていない。
そもそも、考えてみればここは肖像画がある応接間ではなかった。
「えっと──放火、ですか?」
「ええ。このとおりよ」
縲はあたりを見わたした。
壁ばかりでなく多角形の屋根までガラスでできた、奇妙な部屋だった。
ガラスの壁ぎわにはさまざまな植物の鉢が置かれて、葉先からはぽたぽたと水がしたたり落ちていた。
びしょ濡れの床はタイル敷きで、その中央に無惨な焼け焦げがある。
「……ここ、どういう部屋なんですか?」
「コンサバトリー」
「こんさばとりい?」
「日の光を入れて、暖かい国の植物を育てる部屋よ。お母さまが元気でいらしたころは、特に親しいお客さまを招く場でもあったけれど」
十子の口調にぴんときて、縲は改めて部屋を見た。
説明ではあたたかで家庭的な雰囲気に満ちた部屋のはずなのに、むしろ印象は寒々しい。
火事のあとだから当然ではあるのだが、隅の濡れそぼった白布の下には椅子と卓がうかがえ、鉢植えの葉もどこか元気がない。
「でも、いまはあんまり使っていらっしゃらないんですね」
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