3 事件の幕開け(1)

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「わが家が楽園のような場所だったとは言わないわ。けれども、こうした放火みたいな乱暴だけはなかったの。使用人のあいだにここまでこじれた問題があるなら、主人としての義務を果たして解決しなくては」 「……はい?」  縲はぱちくりとまばたいた。  尤雄が放火するとは聞いていない。  そもそも、考えてみればここは肖像画がある応接間ではなかった。 「えっと──放火、ですか?」 「ええ。このとおりよ」  縲はあたりを見わたした。  壁ばかりでなく多角形の屋根までガラスでできた、奇妙な部屋だった。  ガラスの壁ぎわにはさまざまな植物の鉢が置かれて、葉先からはぽたぽたと水がしたたり落ちていた。  びしょ濡れの床はタイル敷きで、その中央に無惨な焼け焦げがある。 「……ここ、どういう部屋なんですか?」 「コンサバトリー」 「こんさばとりい?」 「日の光を入れて、暖かい国の植物を育てる部屋よ。お母さまが元気でいらしたころは、特に親しいお客さまを招く場でもあったけれど」  十子の口調にぴんときて、縲は改めて部屋を見た。  説明ではあたたかで家庭的な雰囲気に満ちた部屋のはずなのに、むしろ印象は寒々しい。  火事のあとだから当然ではあるのだが、隅の濡れそぼった白布の下には椅子と卓がうかがえ、鉢植えの葉もどこか元気がない。 「でも、いまはあんまり使っていらっしゃらないんですね」
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