3 事件の幕開け(1)

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「十子お嬢さま、どうやらなくなった物はなさそうでございます」  軽く息をはずませて報告したあと、縲に気づいてじろりと見てくる。  その視線の厳しさがかつて教わった女教師そっくりで、縲は危うく身震いするところだった。 (授業中、ちょっと目をそらせただけで叱られたっけ……)  一瞬名乗りが遅れる。  だが、先に十子が紹介してくれた。 「クメ、こちらは阿古村縲さん。先日お茶会にいらっしゃってくださった方よ。探偵をなさっているの」 「まあ!」  ここまで非難、否定、抗議の感情しか感じ取れない「まあ」もひさしぶりに聞いた。  彼女も竹尺(たけじゃく)で手を叩いてくるのではないかという気がして、縲はおもわず手をかばった。  そこに横から声がかかった。  楓次だった。 「あ、来てもらったのはおれの発案です。警察沙汰にする前に、探偵に頼んでみたらいいんじゃないかって」 「まああ!」  女中頭の非難と否定と抗議の感情がさらに強まる。  同じ家の雇人の楓次が相手だと、さらに容赦なく目つきが険しい。  その口もとがぴくりとひきつった。 (これはお説教……)  縲はさらなる既視感にとらわれた。  だが、その直前に十子が言った。
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