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「十子お嬢さま、どうやらなくなった物はなさそうでございます」
軽く息をはずませて報告したあと、縲に気づいてじろりと見てくる。
その視線の厳しさがかつて教わった女教師そっくりで、縲は危うく身震いするところだった。
(授業中、ちょっと目をそらせただけで叱られたっけ……)
一瞬名乗りが遅れる。
だが、先に十子が紹介してくれた。
「クメ、こちらは阿古村縲さん。先日お茶会にいらっしゃってくださった方よ。探偵をなさっているの」
「まあ!」
ここまで非難、否定、抗議の感情しか感じ取れない「まあ」もひさしぶりに聞いた。
彼女も竹尺で手を叩いてくるのではないかという気がして、縲はおもわず手をかばった。
そこに横から声がかかった。
楓次だった。
「あ、来てもらったのはおれの発案です。警察沙汰にする前に、探偵に頼んでみたらいいんじゃないかって」
「まああ!」
女中頭の非難と否定と抗議の感情がさらに強まる。
同じ家の雇人の楓次が相手だと、さらに容赦なく目つきが険しい。
その口もとがぴくりとひきつった。
(これはお説教……)
縲はさらなる既視感にとらわれた。
だが、その直前に十子が言った。
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