3 事件の幕開け(1)

8/10

5人が本棚に入れています
本棚に追加
/133ページ
「どうやら盗難目的の目くらましではなかったようですから、誰がどうしてこんなことをしたか、改めて調べてみます!」 「ええ、お願い。腹いせのつもりなのか、ほかに理由があるのか、いずれにしてもこのまま放っておくわけにはいかないわ」  十子は静かに、それでいて毅然と言った。 (すみません、困らせちゃって。みんなあの狸親父のせいなんです!)  心のなかで彼女に詫びながら、縲は焼け焦げにかがみこんだ。  尤雄に会うそれっぽい口実は作れないかと考える。 (何かに火をつけて、このを燃やそうとした……?)  床タイルに焼け焦げを残すくらいだから、炎は相当激しく燃えたようだ。  着火には紙類が使われたらしく、もろく薄い真っ黒な燃えかすがあたりに散っている。  そんななか、しっかりした厚紙がわずかに焼け残っていた。 (なんでこんな物を使うのよ、ここは気をきかせなくっていいってば! 落ち葉だとか枯れ枝だとか、もっと園丁らしい物が手近にいくらでもあったでしょ!!)  それだったらすぐに尤雄を調べる口実になったのに、と内心ぶつくさ言いながら、縲は焼け残りをつまみあげた。 「なんでしょね、それ」
/133ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加