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ちょこん、と隣に楓次がしゃがみこんでくる。
「はいっ!?」
縲ににこりと笑いかけてきてから、楓次は縲が手に持った焼け残りをしげしげと眺めた。
「なんかの台帳ですかねえ? 相当燃えてましたけど」
「って、火事、見たんですか?」
「そりゃあ男手総出で消火作業でしたからねえ。ま、実際おもに働いてたのは尤雄くんですけど」
その名前にどきりとしたが、縲は平静な顔に努めた。
「尤雄?」
「ええ、柳尤雄くん。園丁です。真っ先にここの火事に気づいてみんなに知らせてくれて、庭からのガラス戸には鍵がかかって、本館側の扉も開かないってなったら、すぐさまガラス戸をぶち破りましてね。即決即行、いやあお見事でした」
にこにこと楓次は言った。
「会います? それに尤雄くん、ちょっといい男ですよ」
(それはないでしょ)
とひそかに否定しつつも、彼の提案自体はとてもありがたい。
縲は十子と女中頭も聞いていることを意識しながらうなずいてみせた。
「ええ、最初に発見した人なら話は絶対に聞かなくちゃ。いますぐ会ってきます。どこにいます?」
「この先の庭小屋に住み込んでますよ。案内しま──」
「いえ大丈夫です!」
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