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第三者がいては尤雄に肝心な話ができない。
楓次についてこさせないために、縲は適当な言い訳を口にした。
「それより、この焼け残りについて調べてもらえませんか? あなたのほうがこのお屋敷にはくわしいですし!」
「うわ、おれ探偵助手ですか? いいですねえ、やりましょう」
楓次は楽しそうに承知した。
縲は手早く、彼が持ってきていたランタンを手に取った。
十子に声をかける。
「ではちょっと会ってきますので!」
この先、と言われた方向へと足早に歩き出す。
──だが、江那堂男爵邸の庭は裏手ですら広く、ランタンの灯はあまりに小さかった。
本館から遠ざかって伸びていた小道らしきものがなくなって、植え込みやら何やらの影ばかりが大きくなってしばらく、縲は呆然と立ち尽くした。
「迷った……」
物音がした。
縲はほとんど反射的にランタンをかかげた。
直後、黒い影が不意に光のなかに落ちてくる。
爛々と輝く無表情な一対の目が縲を見た。
「ひっ!?」
声も出ない。化け物か獣か、恐怖が体をさかのぼる。
縲は本能的に逃げ出したが、つんのめった。
倒れていく自分の体をふしぎとゆっくり自覚しながら、どうすることもできない。
背中に化け物の無慈悲な一撃を予想して、せめて目をつぶる。
(ああ、もうだめ──)
だが縲は倒れなかった。
すぐ頭上で舌打ちが聞こえた。
「おまえはどうしてそう面倒ばかり起こすんだ?」
縲は顔をあげた。
落ちたランタンの光になかば影になりながら、尤雄の不機嫌きわまりない目つきが縲を見返していた。
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