3 事件の幕開け(1)

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 第三者がいては尤雄に肝心な話ができない。  楓次についてこさせないために、縲は適当な言い訳を口にした。 「それより、この焼け残りについて調べてもらえませんか? あなたのほうがこのお屋敷にはくわしいですし!」 「うわ、おれ探偵助手ですか? いいですねえ、やりましょう」  楓次は楽しそうに承知した。  縲は手早く、彼が持ってきていたランタンを手に取った。  十子に声をかける。 「ではちょっと会ってきますので!」  この先、と言われた方向へと足早に歩き出す。  ──だが、江那堂男爵邸の庭は裏手ですら広く、ランタンの灯はあまりに小さかった。  本館から遠ざかって伸びていた小道らしきものがなくなって、植え込みやら何やらの影ばかりが大きくなってしばらく、縲は呆然と立ち尽くした。 「迷った……」  物音がした。  縲はほとんど反射的にランタンをかかげた。  直後、黒い影が不意に光のなかに落ちてくる。  爛々(らんらん)と輝く無表情な一対の目が縲を見た。 「ひっ!?」  声も出ない。化け物か獣か、恐怖が体をさかのぼる。  縲は本能的に逃げ出したが、つんのめった。  倒れていく自分の体をふしぎとゆっくり自覚しながら、どうすることもできない。  背中に化け物の無慈悲な一撃を予想して、せめて目をつぶる。 (ああ、もうだめ──)  だが縲は倒れなかった。  すぐ頭上で舌打ちが聞こえた。 「おまえはどうしてそう面倒ばかり起こすんだ?」  縲は顔をあげた。  落ちたランタンの光になかば影になりながら、尤雄の不機嫌きわまりない目つきが縲を見返していた。
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