3 事件の幕開け(2)

1/11

5人が本棚に入れています
本棚に追加
/133ページ

3 事件の幕開け(2)

「いいいいいま化け物、化け物が!」  この際、不機嫌な石頭だろうが唐変木(とうへんぼく)だろうがかまわない。  (るい)は泣きそうになって尤雄(あやお)に訴えた。  尤雄は冷ややかに視線をあげた。 「落ち着け。(たぬき)か猫だ」 「え」  縲はこわごわ肩越しにふりむいた。  ランタンの明かりの外へ、ふっさりしたしっぽが消えていった。  なんてことはない小動物だった、と悟った途端にいまの醜態にいたたまれなくなる。  縲は急いで立ち上がった。 「──えっと、静かにして」 「騒いでんのはおまえだろ」 (……優しくない!)  これのどこが「ちょっといい男」なのか。  楓次(ふうじ)の評価を改めて心から否定しつつ、それでも尤雄の指摘が事実であることは認めざるを得ない。  縲は声をひそめて尤雄に確認した。 「その……いまの、お屋敷に聞こえたと思う?」 「いや、本館とは距離がある。それよりなんでここにいる?」 「探偵として呼ばれたの。放火があったって」 「ああ、口軽(くちがる)がそうしろって勧めてたな。だがいきなりおれのところに来る必要はねえだろ。計画がばれたらどうすんだ」 (ほんっとに優しくない!!)
/133ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加