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3 事件の幕開け(2)
「いいいいいま化け物、化け物が!」
この際、不機嫌な石頭だろうが唐変木だろうがかまわない。
縲は泣きそうになって尤雄に訴えた。
尤雄は冷ややかに視線をあげた。
「落ち着け。狸か猫だ」
「え」
縲はこわごわ肩越しにふりむいた。
ランタンの明かりの外へ、ふっさりしたしっぽが消えていった。
なんてことはない小動物だった、と悟った途端にいまの醜態にいたたまれなくなる。
縲は急いで立ち上がった。
「──えっと、静かにして」
「騒いでんのはおまえだろ」
(……優しくない!)
これのどこが「ちょっといい男」なのか。
楓次の評価を改めて心から否定しつつ、それでも尤雄の指摘が事実であることは認めざるを得ない。
縲は声をひそめて尤雄に確認した。
「その……いまの、お屋敷に聞こえたと思う?」
「いや、本館とは距離がある。それよりなんでここにいる?」
「探偵として呼ばれたの。放火があったって」
「ああ、口軽がそうしろって勧めてたな。だがいきなりおれのところに来る必要はねえだろ。計画がばれたらどうすんだ」
(ほんっとに優しくない!!)
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