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さすがに説教までされては平静ではいられない。
縲は喧嘩腰で言い返す。
「わたしはあんたを心配して、わざわざ口実作ってひとりでここに来たんだけど! まだ絵は盗んでないんだってね、だったらいますぐやめなさい。でなきゃ放火はあんたがやったって、十子さまに何もかも全部話すから」
「おれじゃねえよ」
「しらばっくれるのは顔だけにしといてよ、そんなわけないでしょ!」
と、そこでいまさらながらに尤雄の言葉の意味が頭に届いた。
この人じゃない──すうっと毒気が抜けて、縲はぱちくりとまばたいた。
改めて尤雄の声が耳に入ってくる。
「おれじゃねえって言ってんだろ。第一おれが火をつけたんなら、騒ぎにまぎれてとっくに盗って逃げ出してる」
淡々としたその声には、たしかに説得力があった。
「……ほんと?」
ランタンの明かりが照らす尤雄の顔からは不機嫌な表情は消えていた。
とはいえそれは単に不愛想な顔になったというだけで、彼は息をついた。
「しつけえな。おれがうそつきでも正直者でも、言うことは変わらねえよ」
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