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ひとまず尤雄を監獄送りにすることは防げた。
そのことが単純にうれしくて、縲は自然と彼に笑いかけた。
だが、尤雄の不愛想は揺るぎなかった。
「……で、どうすんだ? おれが盗みをたくらんでたって嬢さんにご注進か?」
「なんでよ? そもそも、そんなことしたくないから来たんじゃない。あんたは見たところ丈夫そうだし、探せば何か仕事くらいあるわよ。あんな狸親父なんかとは手を切って、まっとうに働きなさいって。そしたらきっと、いいこと見つけられるから」
「人の世話を焼くより先に、自分の面倒を見たらどうだ」
「わたしはちゃんと働くけど? そりゃまだ仕事先は見つかってはないけど、これから──」
「その前に、だからまずここはどうすんだよ? 探偵として呼ばれたんだろ、探偵として働かなきゃ筋が通らねえぞ」
「あ!」
縲はぽかんと口を開けた。
尤雄の犯罪を未然に防げたうれしさで、すっかり忘れていた。
さらに追撃が来る。
「実は偽探偵なんで帰ります、とでも言うのか? だったらなんで偽探偵を名乗って嬢さんに近づいたか、後ろに誰がいるか、結局は全部話すことになると思うがな」
「うっ……」
「軽々に飛んでくるからだ。少しは考えてから動け」
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