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尤雄の指摘はまたしてもいちいち事実ではあったが、それだけに腹が立つ。
縲は負けじと彼をにらみ返した。
「だって仕方ないじゃない、あんたがやらかしたと思ったんだから! なっ、なんとかするわよ」
「だからそのなんとかってのは、何をどうしたらできるんだよ。言っとくが、黒幕だと騒いだところであいつは絶対認めねえぜ。おれたちを切ってもみ消して終わりだ。でなきゃ逆に、あいつを脅した脅迫犯として突き出されるかもな」
地位と金のある田友は、向こうに回して戦うにはかなり分の悪い相手だということくらい、縲もよくわかっている。
と同時に、縲の脳裡によみがえった光景があった。
コンサバトリーにひとり立っていた十子の姿だった。
彼女の言葉を思い出す。
──もし、探偵のあなたに解決してもらえたらとてもありがたいの。
あのとき伝わってきた絶望感。
何ひとつ不自由を知らないはずの男爵令嬢なのに、十子はまるで何も持たない者かのように誰かの助けを必要としていた。
その求めを振り払ってしまうことなど、とてもできない。
この先ずっとあの姿を思い出しては、後ろめたさに胸をかきむしられる気がする。
(よし!)
縲は覚悟を決めた。
きっと眉間に力をこめて、改めて尤雄を見上げる。
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