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「とりあえず狸親父はあと回しにして、まずはこの放火事件! あんたがやってないんだから、火つけ犯は別にいるってことで、わたしがそいつを見つければいいわけじゃない。たぶんこのお屋敷にいる誰かなんだから、簡単な話だわ」
彼にというよりは自分に言い聞かせるために、縲はゆっくり力強く言った。
ただ、もちろん自分ひとりでそんなことができるとは思っていない。
「あんたも協力してくれるでしょ?」
眼光鋭く縲を見下ろしていた尤雄の目が閉じられ、彼は大きく息をついた。
「……よくよく仕方ねえな」
ランタンの明かりしかなくても、短い髪の下の眉間にうっすら皺が刻まれていることはよくわかった。
どこからどう見ても喜んでの承知ではなかったが、贅沢は言えない。
縲の顔に自然な笑みが浮かんだ。
「ありがとう、うれしい!」
ちょっと見直してあげる、という言葉は呑みこんでおく。
尤雄は目を開けた。
味方どころか敵ではないかと疑いたくなる眼光で縲をにらみ、いまいましげに口をひらきかけたそのとき。
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