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「おーい尤雄くーん、縲さーん! いますー? 話は終わりましたー?」
暗がりに小さなランタンの明かりが陽気に動いて、楓次ののんきな声が呼んできた。
縲と尤雄は同時にびくりとした。
「あいつか……」
「あ! わたし、あんたに火事の話を聞くって言ってきた……」
けっ、と尤雄が舌打ちする。
「少し黙ってろ。面倒な奴だ、何も感づかれるな」
縲が急いでうなずいたところへ、ランタンの明かりが大きくなって楓次の姿を照らし出した。
「ああよかった、いたいた。いやね、今晩はもう泊まっていけって話なんで、縲さんを呼びに来たんです」
にこにこと、縲と尤雄を交互に見てくる。
無邪気な期待に満ちたきらきらしたまなざしだったが、それだけではなく、何も見逃してくれなさそうなはしっこさも備えている。
緊張が縲の背をさかのぼった。
「それでどうでした、尤雄くんと話してみて」
(ほら来た!)
うかつなことを言おうものなら、尤雄とは以前からの知り合いだったと即座に悟られてしまいそうだ。
黙っていろと忠告してきた尤雄も、同じ恐れを持っているに違いない。
彼は横からさりげなく言ってきた。
「探偵なんだってな。正確なところが大事なようだから、おまえも一緒にもう一度話をつきあわせたほうがよさそうだ」
ふりむいた楓次は一度まばたくと、それまで以上ににっこりした。
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